2017年2月11日土曜日

ワークスタイル変革というけれど

先日、SANSAN株式会社が主催した「SANSAN Innovation Project2017」という展示会兼セミナーに参加してきました。諸事情がありまして、ほんの一部しか参加できませんでしたが某IT企業の社長や副社長の座談会などききながら、ぼんやりと考え事をしていました。座談会のお題は「ワークスタイル変革」。近頃よく聞く言葉です。単なるバズワードかもしれませんが。

「ワークスタイル変革」とは、結局のところ「新事業を構築したり、劇的に効率化したり」するためのイノベーション(革新)を起こす為に、働き方から見直してみよう」という取り組みというのが一般的な解釈でしょう。もっと突き詰めれば、「働き方を変えれば結果が変わる(はず)」ということになろうかと思います。

「ワークスタイル変革」などと銘打たなくとも、これまで働き方というのは結構変わってきました。古くは電信技術・・・なんて歴史を紐解かなくとも、この15年くらいの間に、インターネットを中心に「電子ファイル&メール」がオフィスワークの中心になり、SNSの発達でB2Cマーケティングのあり方は変わり、クラウドソーシングやクラウドファウンディングというようなヒトモノカネをインターネットで調達できるという猛烈な変革がありました。その結果、働く側が少しでもラクになったか、楽しくなったか、というと少なくとも企業勤めのサラリーマンはむしろ多忙になったというのが実感ではないでしょうか。

情報技術の発達が寄与したのは「効率の劇的な向上」でした。早い話が10日かかる仕事が1日で出来るようになったので、その分10倍仕事をするようになったという事に尽きます。特にオフィスワークはそうです。仕事柄いろいろなオフィスを訪問しますし、自分の所属する会社をみても、「みんな疲れているなあ」と感じます。どちらかというと、効率化がもたらしたものは、その追求による「現場の疲弊」だったのではないかという気がします。顧客満足度は大幅に向上したでしょう。(何しろ、ネットで注文すると下手するとその日のうちに届くという異常発達ぶりですし)ですが、従業員満足度はむしろ下がったと思います。現場からまったく「余裕」というものがなくなったのが、情報技術の発達の帰結ではないかと。

ところで、企業活動の効率化を実現するのにほとんどこれしかないという方法が「標準化と整流化」です。業務をプロセス単位にモデル化し、流れを分析して、どこがボトルネックになっているかをあぶり出し、そのプロセスをどうすれば標準化できるかを考え実行すると結果として整流化がなされます。このステップを踏めば、ほぼ全ての現場で効率はアップします。またそのプロセスをITを利用して自動化してしまうことで、省力化し、アウトプットを減らさずに人員のカットでさえ可能となります。
業務コンサルティングの肝はこれだけといえばこれだけで、どんな仕事でも工場のラインのごとく誰がやっても整然とこなせる状況を実現するということです。

その結果、コンサルや経営側はギリギリの効率を狙いますので、人は減るのに仕事は増える(で、給料はあがらない)という状況になります。従業員満足度はむしろ下がります。さらにプロセスに区切られた仕事はKPI(その時点で達成すべき数字)で管理されますので、割合とギスギスします。日本の大企業はかなり標準化されていますので、かなりの確立で「不機嫌な職場」と化していることが多いでしょう。(偏見だといいですが)

さて、効率化と革新(イノベーション)は普通に考えると非常に相性が悪いものです。ある意味極限まで効率化された働き方(業務プロセス・勤務形態・人事評価諸々)は精密機械のようなもので「思いつきの行動」を許容できません。それを許せば間違いなく効率が下がりますし、複数の人間がいくつかのプロセスをスクラムを組むように進めているケースが多い現代の職場では、一人の思いつきの行動がかなりのダメージを業務に与えてしまう可能性があります。もちろん、多くの業務ではさらなる効率化、合理化を志向していますから「プロセスの改善」は常に起きます。しかし、その職場からプロセス・イノベーションと呼べるような革新的な改善はなかなか難しいのです。何故ならば、その変革のために一時的であれ、せっかく標準化と整流化を実現し精密機械と化した業務を混乱させる必要があり、ビジネスにマイナスのインパクトを与えるからです。いわゆるイノベーションのジレンマというものですね。

この状況からセレンディピティやら個人の勝手な探求やらが必要な「イノベーション」が生まれるとは想像できません。スタートアップ企業のように、これから或は今まさに「ビジネスの作り込み」をしているならばいざ知らず、「効率化」のフェーズを終えてしまった職場ではイノベーションのための隙間がありません。なので、「働き方を変えて結果を変える」ためのワークスタイル変革とは、隙間を作る、別の言い方をすれば効率を落としてでも少し働き手が余裕を持てる方向になるはずです。時間な余裕(工数)だけでは不十分で、働いているメンバーがそれぞれに考えるだけの精神的、環境的な余裕を持たせる必要があります。そうでなければそもそもアイデアすら出す気にならないでしょう。人間は普通はあまりにも余裕がないと「思考停止」して精神を防衛するものだからです。

ただ実際にはその企業のDNA、もしくは企業文化の中に「隙間を持たせる」ことが最初から組み込まれていないと実践は難しいものです。
その「隙間」そのものに価値があるにもかかわらず、そのDNAが組み込まれていない企業だと、大抵は「もっと効率化して、その結果出てきた時間的余裕(工数)でイノベーションを起こそう」と考えがちです。しかし、まだまだ効率化まで至らないスタートアップを除けばこれはうまく行きません。なぜなら「さらなる効率化」は結局現場のさらなる疲弊を招き、考える余裕を奪う上に、「隙間」それ自体の価値を認めないため、イノベーションをKPI的に管理しようとして、結局小粒のアイデアが言い訳的に出てくるだけになり、出てこなければ「イノベーション」を効率化しようとしたりします。「革新」を「効率化」するなんて悪い冗談でしかありません。

ワークスタイル変革でイノベーションを起こそうとお考えの企業は、まずは従業員が余力を持って、笑顔で働けることを目標に「ワークスタイル変革」を行なうべきでしょう。そしてその「隙間」「余裕」それ自体に価値があると考えてください。そしてその余裕が結果としてイノベーションにつながる(かもしれない)ぐらいに構えるべきです。もし、そんな不確実なことはできない。我が社の社員にそんな能力はないとお考えの上で、それでもイノベーションをと仰るならばベンチャーキャピタルを経由して、有望そうなスタートアップを買ってしまうやり方がより近道だと思います。



結局、不機嫌な職場に「イノベーション」は難しい。ましてや片手間では100%無理。というのが今のところのコンサル屋としての私の結論です。

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